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Ⅷ、地域包括医療・ケア構築のポイント

最終更新日:2010年7月23日(金曜日) 19時42分

 安心な地域社会の基盤として、未病を目指す地域での保健活動と病気や怪我で困った時いつでも受診できる体制整備(救急医療、急性期入院等)が必要です。その上に、高齢社会では病気や老いから介護支援が必要になっても住み慣れた自宅や地域で幸せに生活できるための環境整備が必要です。これには介護・福祉行政や病院・診療所など医療機関(公助)のみでは達成できず、家族の協力(自助)は勿論ですが、地域の住民の意識改革と協力(共助)が必要です。地域包括医療・ケア構築のポイントは医療機関や行政の専門職などの努力と協力で基礎を作り、最終的には住民が共助の思いで活動し家庭や地域の絆を強くすることで完成します。

1、理念や基本方針の明示が必要:専門職や行政、住民の参画が必要であり、明確な理念や基本方針が参加者の思いの統一化や向かうべき方向の確認につながります。南砺市民病院の理念は「医療・保健・福祉活動を通じて市民の健康で豊かな生活に貢献します」であり、基本方針は「①市民の視点に立ち、市民とともに歩む病院にします。②質の高い安全な医療を公平に提供します。③市民が、その人らしい幸せな生涯を過ごせるよう支援します。」です。

2、「キャッチフレーズ」も大切:理念や基本方針は必要ですが、参加者が理解し心を一つに出来る「キャッチフレーズ」も大切です。南砺市民病院は「幸せに生涯を過ごせる街づくりを市民とともに」を掲げ、啓発に努めています。

3、キーマンになる医師の存在:地域包括医療・ケア構築には覚悟を持ったキーマンが必要であり、リーダーシップと広い理解が必要なことから医師の存在が望まれます。高齢社会の中山間地の病院・診療所は地域包括医療・ケアの提供を期待されており、実践する立場の医師がキーマンとなることは必然的です。10年前後で30%を越す高齢化が県庁所在地や大都会にも迫るため、今後は全人的医療を目指し地域包括医療・ケア構築のキーマンになりうる総合医・家庭医を育成する必要があります。

4、キーマンと協働する専門職が必要:病院では急性期医療が中心ですが、地域包括医療・ケアの構築には保健・健康増進(健診・ドック、介護予防など)から障害へのリハビリや在宅・施設での支援体制作り、看取りまで幅広い活動が必要です。活動の意義を理解し、病院内や地域でも積極的に行動する専門職の存在が必要であり、キーマンを元気付け、活動の幅を広げます。

5、患者・家族へ地道な支援や働きかけが大切:どの様な高齢障害者でも必要な場合は入院し、適切な診療で早期の社会復帰に努めていますが、介護負担が増大する場合など問題となります。虐待が懸念される場合以外は施設希望の場合も、入所まで在宅支援体制を整え自宅退院とします。当院は介護必要度の高い患者への急性期医療のため病棟に介護福祉士を配置していますが、安定期の介護目的ではありません。地域医療を守るのは医療関係者ですが、最後には患者・家族や住民の理解と協力が必要です。そのため1事例毎、患者・家族へ地道な支援と働きかけが最も大切です。

6、地区住民への啓発活動も大切:「長年家庭や地域で貢献されてきた高齢者を不幸にしない、支える家族も犠牲にしない」への取り組みが今求められています。重度な脳卒中や認知症、神経難病患者が安心して在宅生活するには、ケアマネジャーや介護職だけでなく医師や看護師などの支援と共に、無理のない家族介護と住民の理解と協力が必要です。地域包括医療・ケアの構築の必要性と価値を市民フォーラムやマスコミ、市報などで啓発してゆくことはとても大切です。