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臨床研究

最終更新日:2024年1月10日(水曜日) 17時33分


 

大学病院等の大きな病院で診療される機会の少ないありふれた疾病や高齢者特有の問題については、その解決方法を研究される機会が少なく、高齢化が進む中で日常診療に戸惑うことがあります。そうした問題に対し、当院では2007年度より多職種で構成されたチームが主導で臨床研究を行い、包括的評価と個別化された介入によって少しでも解決できるよう努力し、その成果を発表してきました。また、総合診療専攻医研修に必要な臨床研究の課題について、研究の立ち上げから実施、解析などの技術的な支援、ケースレポートや原著論文の執筆を行い、当院から世界へのエビデンス発信を行っています。

 

当院の臨床研究は、主に過去に行った診療を振り返る研究(後ろ向き研究)が中心であり、対象者に新たな検査や治療を行って効果を試す研究(前向き研究)はほとんどありません。このページでは、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に則って、当院で行っている臨床研究の情報を公開しています。今後の医療をよりよくするための臨床研究にご協力、ご理解くださいますようお願いいたします。

なお、研究対象者となる方々が、ご自身の診療情報の研究利用をいつでも拒否できることを保障しています。詳細は、以下の各研究にリンクしている臨床研究説明文書をご参照ください。

 

 

【現在実施中の臨床研究】
Post-COVID-19に関する研究
課題名:COVID-19入院患者の予後調査
倫理委員会承認:第932号(20221128日)
主任研究者(職種):内科・総合診療科 荒幡昌久(医師)
臨床研究説明文書①

 

②総合診療医に関する研究
課題名:中小病院における総合診療医の診療範囲の分析と「総合診療医モデル」の作成
倫理委員会承認:第933号(20221128日)
主任研究者(職種):内科・総合診療科 荒幡昌久(医師)
臨床研究説明文書②

 

③特異な重度脂肪肝例の分析

課題名:肥満に関連せず、可逆的に改善する可能性を有する脂肪肝症例の調査・検討
倫理委員会承認:第934号(20221128日)
主任研究者(職種):内科・総合診療科 小川太志(医師)
臨床研究説明文書③

 

 

【過去に終了した臨床研究と業績】

1. 認知症高齢者の摂食嚥下障害に関する研究


課題名

①認知症高齢者摂食障害例に対するクリニカルパスを用いた包括的介入の効果

②認知症高齢者摂食嚥下障害における訓練士との性差が摂食嚥下訓練効果に与える影響

誤嚥性肺炎患者における他覚的嚥下評価と入院期間および患者アウトカムとの関係

倫理委員会

①第664号(2013321日承認)

②第472-1号(2020101日承認)

817-3号(2021329日承認)

主任研究者

①内科・総合診療科 医師 荒幡昌久

②地域リハビリテーション科 言語聴覚士 千葉彩

③歯科口腔外科 歯科衛生士 加治啓子

主な内容

①日本プライマリ・ケア連合学会より若手研究助成を受けて20134月から20153月に実施した前向き介入試験です。摂食嚥下障害により、人工的水分・栄養補給法(点滴や経管栄養など)に依存状態となった患者さんの原因を多職種による評価やカンファレンスで全人的に分析し、可能な介入を行うことで、摂食機能予後が改善しました。研究の中間解析結果を第6回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会(20156月、つくば市)において日野原賞候補演題として発表し(残念ながら受賞ならず)、最終結果は20177月に英文誌BMC Geriatricsに発表しました。また、2018年度に日本クリニカルパス学会より優秀英語論文賞を授与されました。ほかにも、多職種が各々の立場から摂食嚥下障害の分析を行い、数多くの学会発表を行っています。

②上記の研究対象の患者さんに加え、その後の摂食嚥下障害で診療した患者さんの介入結果を振り返ったところ、言語聴覚士の性別と患者さんの性別の組み合わせにより介入効果が違うのではないかという疑問が生まれました。分析した結果、異性に対する介入のほうが、同性に対する効果より高い可能性が示唆されました。

③摂食嚥下機能が低下した患者さんに十分な評価を行い、改善を目指した治療的介入を行うには時間がかかります。嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)などの客観的な嚥下検査を受けた患者さんのその後の経過を把握し分析し、これらの検査の有用性や診療における位置づけを検討しました。その結果、嚥下検査の実施が必ずしもアウトカム改善につながるものではありませんでした(むしろ在院日数が延長し、嚥下機能改善率が低いという結果)。この結果は、検査の有用性を否定するものではなく、難治の咽頭期障害に対する精査として適切に嚥下検査が選択されていることの反映と考えられました。したがって、嚥下検査の実施率は医療の質(QI)の指標にはならないと結論づけました。

発表

①第6回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会(2015613日)など

22回日本言語聴覚学会(202161819日)

③第59回全国自治体病院学会(2021114日)

論文

BMC Geriatr. 2017;17(1):146. doi: 10.1186/s12877-017-0531-3.


(各項目の①、②、③はそれぞれ同じ研究に対応しています)

 

 

2. クロストリジウム・ディフィシル腸炎(CD腸炎)に関する研究


課題名

当院入院患者におけるClostridium difficile感染症の実態把握調査

倫理委員会

813号(2016126日承認)

主任研究者

内科・総合診療科 医師 小川太志

主な内容

高齢者の感染症(誤嚥性肺炎、尿路感染症、胆道感染症など)の入院が多い当院では、入院中にクロストリジウム・ディフィシル腸炎(CD腸炎)を併発して入院期間が延長する事例が多く、以前から対策が求められていました。CD腸炎発症の要因や予後因子に関する研究は、全世界で数多くなされていますが、当院の患者層や環境を考慮すると、過去の報告は十分参考にならず、独自の対策が必要と考えられ、そのための臨床研究を行いました。過去の事例の検討から、発症要因の特定のみならず、CD腸炎の発症と死亡率の上昇には強い関連があることが判明し、いくつかの解析結果について、複数の学術集会に報告しました。

発表

55回全国自治体病院学会(20161021日)

医学生・研修医の日本内科学会ことはじめ2017東京(2017417日)

10回日本プライマリ・ケア連合学会学術集会(201961日)


 

 

3. 終末期医療に関する研究


課題名

終末期カンファレンス検討例の転帰と予後に関する調査

倫理委員会

96号(2018517日承認)

主任研究者

内科・総合診療科 医師 荒幡昌久

主な内容

非がん疾患において、終末期と決定することが人工栄養(胃ろうや中心静脈栄養など)の実施の是非や診療内容(人工呼吸器の使用など、どこまで治療するべきか)の方針決定に強く影響します。しかし、終末期とするための判断基準はガイドラインに存在せず、医療現場では長い間その判断に苦悩してきました。当院では、2007年より「終末期カンファレンス」の場を設け、厚労省の示したプロセスガイドラインに沿って慎重に1人1人の終末期診断をしてきました。本研究によって、そのような診断方法が既存の予後予測方法よりも優れた診断精度を有することが証明されました。しかし、非がん疾患における予後の予測はがん疾患よりもやや精度が劣ることも分かりました。この知見を活かしつつ、今後もより慎重な判断をしていく必要性が認識されました。

発表

62回日本老年医学会学術集会(2020846日)

論文

Int J Gen Med. 2023;16:23-6. doi: 10.2147/IJGM.S392963


 

 

4. 尿路感染症の診療に係る観察研究


課題名

①尿路感染症患者の各種アウトカムに影響する因子の検討

②尿路感染症クリニカルパス使用の効果の検討

③尿路感染症クリニカルパス使用の効果の検討(②のプロトコール改訂)

倫理委員会

①第817-1号(2021329日承認)

②第158号(2022512日承認)

③第706号(20221226日承認)

主任研究者

内科・総合診療科 医師 荒幡昌久

主な内容

①当院の高齢患者さんにおける尿路感染症は、他院と比べて在院日数が長くなってしまうことが長年問題となっていました。そのため、そのような患者さん達における在院日数延長の要因を分析しました。その結果、合併症・併存症が多いこと、泌尿器科医の評価介入がないこと、摂食嚥下機能が低下することが大きな在院日数延長の要因になっていることが分かりました。

②③上記の研究結果から、当院独自の尿路感染症に対するクリニカルパスを作成しました。クリニカルパスでは、在院日数が延長する因子により層別化した対策を行い、摂食嚥下機能低下に対して早期に対策行うように工夫しました。①の分析からパス作成に係る一連の取組みにより、当院に入院した尿路感染症の患者さんのアウトカムがどのように変化したのか分析しました。尿路感染症の在院日数は1.5日短縮していましたが、統計学的には有意ではありませんでした。効率的な診療が行われるようになり、1人あたりの診療報酬収入額が増加していることが示唆されました。

③クリニカルパスが適用された場合と適用されない場合の間で、どのようなアウトカムの違いがあるかを分析しました。やはり在院日数は統計学的な差がありませんでしたが、パス使用者では半年以内の再入院率が有意に低くなっていました。

発表

①第59回全国自治体病院学会(20211145日)

60回全国自治体病院学会(2022111011日)

③第61回全国自治体病院学会(2023831日~91日)

23回日本クリニカルパス学会学術集会(2023111011日)

論文

①日本プライマリ・ケア連合学会誌.2023;46(3).89-95. doi: 10.14442/generalist.46.89


(各項目の①、②、③はそれぞれ同じ研究に対応しています)


関連ファイル